THIS WAS / 日曜日の印象

THIS WAS

  1. My Sunday Feeling / 日曜日の印象 (Anderson)
  2. Someday the Sun Won't Shine for You / いつか太陽は沈む (Anderson)
  3. Beggar's Farm / ベガーズ・ファーム (Abrahams/Anderson)
  4. Move on Alone / ムーヴ・オン・アローン (Abrahams)
  5. Selenade to A Cuckoo / カッコー・セレナーデ (Kirk)
  6. Dharma for One / ダーマ・フォー・ワン (Anderson/Bunker)
  7. It's Breaking Me Up / イッツ・ブレイキング・ミー・アップ (Anderson)
  8. Cat's Squirrel / キャッツ・スクワレル (Ross)
  9. A Song for Jeffrey / ジェフリーへ捧げし歌 (Anderson)
  10. Round / ラウンド (Anderson/Abrahams/Bunker/Cornick/Ellis)

Remastered Edition Bonus Tracks
  1. One for John Gee / ワン・フォー・ジョン・ジー (Abrahams)
  2. Love Story / ラヴ・ストーリー (Anderson)
  3. Christmas Song / クリスマス・ソング (Anderson)
40th Anniversary Collector's Edition Disc1 Bonus Tracks
  1. So Much Trouble [John Peel, Top Gear, 23rd July 1968]
  2. My Sunday Feeling (Anderson) [John Peel, Top Gear, 23rd July 1968]
  3. Serenade to A Cuckoo (Kirk) [John Peel, Top Gear, 23rd July 1968]
  4. Cat's Squirrel (Ross) [John Peel, Top Gear, 23rd July 1968]
  5. A Song for Jeffrey (Anderson) [John Peel, Top Gear, 23rd July 1968]
  6. Love Story (Anderson) [John Peel, Top Gear, 5th November 1968]
  7. Stormy Monday (T-Bone Walker) [John Peel, Top Gear, 5th November 1968]
  8. Beggar's Farm (Abrahams/Anderson) [John Peel, Top Gear, 5th November 1968]
  9. Dharma for One (Anderson/Bunker) [John Peel, Top Gear, 5th November 1968]
40th Anniversary Collector's Edition Disc2 Bonus Tracks
  1. Love Story (Anderson) [New Stereo Mix]
  2. Christmas Song (Anderson) [New Stereo Mix]
  3. Sunshine Day (Abrahams) [Original Mono Recordings]
  4. One for John Gee (Abrahams) [Original Mono Recordings]
  5. Love Story (Anderson) [Original Mono Recordings]
  6. Christmas Song (Anderson) [Original Mono Recordings]

Collector's Edition (2枚組)
Jethro Tull - This Was (Collectors Edition)

Remasterd Edition


Information

概要
デビュー作にして、オリジナルメンバーによる唯一のアルバム。初代ギタリスト、ミック・エイブラハムズの影響でブルースの影響が濃いが、現在でも色褪せない強烈な個性を放つ。

リリース年/英米チャートアクション
オリジナル---1968年。全英第10位/全米第62位。
リマスター---2001年。
コレクターズエディション---2008年。

アルバム種別
スタジオ盤

メンバー
#1 1967-68
Vo,Flute, etc. G,Vo B Ds
Ian Anderson
イアン・アンダーソン
Mick Abrahams
ミック・エイブラハムズ
Glenn Cornick
グレン・コーニック
Clive Bunker
クライヴ・バンカー

オリジナルレコーディング情報
プロデューサー---Terry Ellis and JETHRO TULL
エンジニア---Victor Gamm
スタジオ---Sound Techniques Studio,Chelsea,London

個人的評価
-- Recommended !


Review

背景
JETHRO TULLの記念すべきデビューアルバムである。ただしJETHRO TULLはこのとき新たに結成されたバンドというよりは、相次ぐメンバーの脱退で空中分解したJOHN EVAN BAND / ジョン・エヴァン・バンド[1]--Ian Anderson(イアン・アンダーソン)とGlenn Cornick(グレン・コーニック)--にMcGREGOR'S ENGINE / マグレガーズ・エンジンのメンバー--Mick Abrahams(ミック・エイブラハムズ)とClive Bunker(クライヴ・バンカー)--が合流する形で再生されたバンド、といった方が実情に近い。
バンドはJOHN EVAN BAND時代よりDerek Lawrence(デレク・ローレンス)のプロデュースの下いくつかの曲をレコーディングしており、JETHRO TULLとして再スタートを切った後にMGMよりシングル"Sunshine Day"(B面は"Aeroplane")をリリースしている。Lawrenceの故意なのかミスなのかJETHRO TOE / ジェスロ・トウという名義であったが、これがJETHRO TULLのメジャーデビューであった。しかしまるで売れなかった。
ここでDerek Lawrenceとは決別し、親交のあったSPOOKY TOOTH / スプーキー・トゥースの勧めで[2]Island Recordと契約する。[3]
アルバムリリースに先立ちバンドはナショナル・ブルース・アンド・ジャズ・フェスティバルに出演する[4]。ここでのパフォーマンスが共演者を喰ってしまうほど素晴らしかったため大評判となった。
新人バンドとしては異例とも言えるそうした前評判の高まりの中でリリースされたのが本作である。

音楽性
60年代後半には革新的なブリティッシュロックバンドが続々と登場していたわけであるが、JETHRO TULLがこの「THIS WAS」で聴かせた、フルートを大胆にフィーチャーした、単なるブルースロックの枠にとらわれない音楽スタイルは、当時のシーンにとってまさに衝撃的であった。
もっとも、アルバム全体を通してセカンド以降とは肌触りの違う感触があるのも事実。Ian Andersonと並ぶ個性の持ち主、リードギターのMick Abrahamsの存在であろうか、ブルース色が濃い。Abrahamsは作曲に加えてボーカルも披露しており、Andersonに負けない存在感がある。事実上双頭アルバムといってよい。
バンドメンバーそれぞれの見せ場が用意されており、Ian Andersonは5(Selenade to A Cucko / カッコー・セレナーデ)、Mick Abrahamsは8(Cat's Squirrel / キャッツ・スクワレル)、Clive Bunkerは6(Dharma for One / ダーマ・フォー・ワン)で存分にソロを弾いている。Glenn Cornickはこうした長々とした単独ソロは嫌いらしいが[5]1(My Sunday Feeling / 日曜日の印象)で印象的なソロを弾いている。

曲解説
冒頭を飾る1(My Sunday Feeling / 日曜日の印象)は、AndersonのフルートとAbrahamsのギターが絶妙に絡み合うTULL流ハードロックの典型にして代表曲のひとつ。
二人のツインボーカルが聴ける2(Someday the Sun Won't Shine for You / いつか太陽は沈む)はブルース。近年のライヴで頻繁にレパートリーに取り上げられるようになった。
そしてAndersonとAbrahamsの共作3(Beggar's Farm / ベガーズ・ファーム)も出色の出来だ。AbrahamsのブルースセンスとAndersonのジャズフルートがマッチしている。
5(Selenade to A Cucko / カッコー・セレナーデ)はジャズ界の変態マルチプレイヤー、Roland Kirk(ローランド・カーク)の曲で、Andersonがはじめてフルートで吹いた曲である。そのためもあり、この頃のAndersonのフルートプレイはこのKirkをモデルにしている(というかモロパクリ)。
Clive Bunkerのドラムソロをフィーチャーした6(Dharma for One / ダーマ・フォー・ワン)では、アンダーソンが"クラグホーン"なる改造管楽器を披露してもいる。そして代表曲として人気の高い9(A Song for Jeffrey / ジェフリーへ捧げし歌)のジェフリーとは後にメンバーとなるJeffrey Hammond(ジェフリー・ハモンド)のことだが、歌詞は(おそらく)全く関係ない。TULL初期の何曲かに彼の名は登場する。なお、前述の"クラグホーン"はHammondの製作という[6]

アルバムタイトル
「THIS WAS」とはすなわちTHIS WAS JETHRO TULLということであり、初期のブルースをルーツとした音楽から大きく飛躍した音楽を作り出しつつあるバンドの姿を投影している[7]
つまり、「THIS WAS」の中身は、あくまでもこのアルバムレコーディング時点でのJETHRO TULLの音楽であり、現在?は変化していることを示唆している[8]
邦題は冒頭の1(My Sunday Feeling / 日曜日の印象)から。

Mick Abrahamsの貢献と脱退
本作でIan Andersonと並ぶ個性を見せつけているMick Abrahamsであるが、彼は「ブルースでなければそいつはクソだ。」("If it's not blues, it's shit.")[9]と言ってしまうほどブルースにこだわる人で、同じくブルース好きながらもジャズやトラッド、クラシックなどを貪欲に取り込もうとするIan Andersonとは音楽的にも人間的にも対立する。
結局、本作リリース後の全英ツアーをもって脱退する(事実上の解雇)。主導権を巡るIan Andersonとの軋轢もあったが、Glenn Cornickとの相性も悪かったようだ[10]。そのような状況の中で、バンドがビッグになりつつあるにもかかわらず、ロンドン郊外のルトンを拠点として離れず、ツアーにも積極的でなかったAbrahamsが排除されるのは必然だったといえる。
その萌芽は4(Move on Alone / ムーヴ・オン・アローン)のアレンジがライターのAbrahamsに無断で行われた事実に見て取れる。[11]
Mick Abrahamsの真の才幹はこの後結成するBLODWYN PIG / ブロドウィン・ピッグで開花するが、本作では特に8(Cat's Squirrel / キャッツ・スクワレル)でのその腕前を堪能していただきたい。
Abrahamsの後任は、その全英ツアーで共演していたバンド、EARTH / アース(後のBLACK SABBATH)のギターリスト、Tony Iommi(トニー・アイオミ)がいったんは務めることになる。[12]

リマスター盤
2001年にIan Anderson自身によるリマスターが施され再発された。日本でも紙ジャケ及び通常盤でリマスター再発された。
ボーナストラックの10(One for John Gee / ワン・フォー・ジョン・ジー)はMick Abrahams作のインスト。シングルカットされた9(A Song for Jeffrey)のB面曲で、タイトルの"one"とはA面9(A Song for Jeffrey)の"a song"の代名詞・・すなわち"A Song for John Gee"ということである。John Geeとは、JETHRO TULLが頻繁に出演していたMarqueeクラブの当時のオーナーで、「20周年ビデオ」にも登場している。
11(Love Story / ラヴ・ストーリー)は本アルバムリリース後にレコーディングされたシングルで、初めてIan Andersonのマンドリンがフィーチャーされている。B面の12(Christmas Song / クリスマス・ソング)はAndersonのほぼワンマンレコーディング[13]であり、やはりマンドリンが登場。ストリングスアレンジはDavid Palmerによるもの。全英29位とまずまずのヒットとなり、この後しばらくJETHRO TULLはシングルヒット路線を歩むことになる。

40周年コレクターズエディション
2008年にリリース40周年を記念して2枚組のコレクターズエディションがリリースされた。
4人のメンバーのライナーノーツも付いている。もっともIan Andersonのそれはリマスター盤のものを加筆修正したものである。レコーディングのためにTerry Ellis経由で銀行から借りた金の額が修正されている・・・

    CD One: Original Mono LP (Remastered) & BBC Sessions
Disc1はオリジナルモノラルミックスのリマスターとBBCライヴから成る。オリジナルアナログがリリースされたときモノラル盤も出ていたがすぐに廃盤となっていた。その初リマスターとなる。
BBCライヴは「20周年BOX」で既出のものがあるが、別マスターを使用したのか、ここではJohn PeelのMCがカットされているし音質も大幅に向上している。
スタジオライヴだしオーバーダブがあるものもあるが、オリジナルメンバーのライヴが聴ける貴重な音源である。おそらく、残念ながら本物のライヴ音源は存在しないのだろう。11(So Much Trouble)は後に「25周年BOX」でリメイクされ、ライヴで演奏されることもあった。
    CD Two: New Stereo Album Mix, Additional New Stereo Mix, & Original Mono Recordings (Remastered)
Disc2はニューステレオミックスとシングルの新リマスターである。いかにも60年代なステレオ効果があったオリジナルステレオミックスに慣れていると結構新鮮である。賛否あるかもしれないが、個人的にはこのニューミックスも捨てがたい。
13(Sunshine Day)は「20周年BOX」で既出であるが、JETHRO TULLのデビューシングル(JETHRO TOE名義)のA面である。Mick Abrahamsの曲。B面の"Aeroplane"が収録されなかったのは、JETHRO TOE名義とはいえ実際には前身バンドのJOHN EVAN BAND[14]の演奏であるためだろう。

コレクターズエディションが出たものの、通常リマスター盤はオリジナルステレオミックスのリマスターであるためこれで価値が下がるわけではないところが商売上手ではある。イングランドで実演家印税が50年で切れることの対策としてリリースされたのかと疑っていたが、EMIのコレクターズエディションシリーズの一環らしい。

その他
米では62位とあまりヒットしなかったが、1969年のウッドストックフェスティバルでは、ライヴとライヴの合間にサウンドシステムから流されていた。[15]


Notes

[1]--実際にはJOHN EVAN BANDJOHN EVAN'S SMASHNAVY BLUEIAN HENDERSON'S BAG O'BLUESCANDY COLOURED RAIN等、名前を変えながら活動していた。ここでは便宜的にこの名とする。
[2]-- Nollen,Scott Allen. JETHRO TULL A HISTORY OF THE BAND - 1968-2001, McFarland (2002), P34
[3]--マネジメントは、JOHN EVAN BAND時代から引き続き、Terry Ellis(テリー・エリス)とChris Wright(クリス・ライト)が立ち上げたEllis-Wright Agency -- 後のChrysalis / クリサリスの母体 -- である。
[4]--内ジャケットの写真はこのときのもの。なお、観客には後にメンバーとなるDavid PalmerやMartin Barreもいた。Rees,David. MINSTRELS IN THE GALLERY - A HISTORY OF JETHRO TULL, Firefly (1998), P25
[5]--Nollen,Scott Allen. JETHRO TULL A HISTORY OF THE BAND - 1968-2001, McFarland (2002), P36
[6]--Original LP Liner Notes
[7]--Rees,David. MINSTRELS IN THE GALLERY - A HISTORY OF JETHRO TULL, Firefly (1998), P27
[8]--Original LP Liner Notes
[9]--Nollen,Scott Allen. JETHRO TULL A HISTORY OF THE BAND - 1968-2001, McFarland (2002), P37
[10]--Ibid, P38
[11]--Mick Abrahamsはアルバムがリリースされてから自分の曲に勝手にアレンジが加えられていることを知った。しかしアレンジ自体は気に入っているという。Abrahams, Mick. Collector's Edition Liner Notes
[12]--元THE NICE / ザ・ナイスのDavy O'List(デイヴィ・オリスト)が一時的に加入したという説は誤りである。Rees,David. MINSTRELS IN THE GALLERY - A HISTORY OF JETHRO TULL, Firefly (1998), P29 et al.
[13]--Mick AbrahamsがA面の"Love Story"では弾いているのに"A Christmas Song"では弾いていないのはレコーディング中に脱退したから、という説は誤りである。Russo,Greg. FLYING COLOURS: THE JETHRO TULL REFERENCE MANUAL, Crossfire Publications (2000), P33
[14]--実際にはDerek Lawrence配下での名義はCANDY COLOURED RAIN。ややこしい。
[15]--Benson,Raymond. THE POCKET ESSENTIAL JETHRO TULL, Pocket Essentials (2002), P21


戻る
j-tull.jp
Copyright 1997-2008 j-tull.jp