1993年発表。結成25周年を記念して発売されたベスト盤であり、数多いベスト盤のなかでもオーソドックでまともな出来の一つ。
68年の「THIS WAS」から91年の「CATFISH RISING」まで全てのオリジナルアルバムからまんべんなく選曲されており、お薦めの一枚・・・と言いたいところだが、なにぶん曲数が多いので理解するのに時間がかかるかもしれない。かく言う筆者はこのアルバムが最初のTULL体験だったのだ。
というわけでこのアルバムからTULLに入り、さらにファンになるにはそれなりにコツがある。選曲を考察してみよう。前述の通りこのアルバムは全てのオリジナルアルバムから選曲されてはいるが、アルバムによって曲数にムラがある。選曲数が多い順に並べてみる。
以下は1曲。ただし初期のシングルヒットを含む編集盤「LIVING IN THE PAST」からは重複を除くと5曲選ばれている。また選曲は公式ファンジンA NEW DAYやラジオを通じて意見を募集したそうだ。
ここに挙げられたアルバムはアンダーソンが気に入っている、そしてファンの間でも人気が高いアルバムだと考えて差し支えないだろう。このアルバムからJETHRO TULLを購入した方はこのリストを参考に攻略してはどうだろうか。
日本盤が廃盤なので、初心者のファンがこのアルバムを購入しても何の情報も得られなければJETHRO TULLはやっぱりとっつきにくいままだろう。というわけで各曲解説。(他のベスト盤のレビューと文章がダブってるのはご容赦)
Disc1
2(Begger's Farm) -- 「THIS WAS」収録。Ian Anderson(イアン・アンダーソン)とMick Abrahams(ミック・エイブラハムズ)の共作曲でギターとフルートの絡みが素晴らしく、ラストでAndersonのフルートが叫ぶ佳曲。JETHRO TULLがデビューしていきなり人気者になったのも納得。
3(A Christmas Song) -- 「LIVING IN THE PAST」収録。シングル"Love Story"のB面で、Mick Abrahamsが脱退したためギタリストは不在。Ian Andersonのマンドリンがフィーチャーされている。
4(A New Day Yesterday) -- 「STAND UP」収録。ヘヴィなリフが特徴的。現在でもライヴのレパートリーに含まれることがある。
5(Bouree) -- 「STAND UP」収録。Ian Andersonのフルートを全面的にフィーチャーした有名なインスト曲。原曲はJ・S・バッハの「リュート組曲」で、JETHRO TULLの数少ないカヴァー曲。Glen Cornick(グレン・コーニック)の印象的なベースソロにも注目。
6(Nothing Is Easy) -- 「STAND UP」収録。ライヴではオープニングを飾ることもあった、終わりそで終わらない絶妙の展開を持つ、ハードロック色の強い初期の名曲。
7(Living in the Past) -- 「LIVING IN THE PAST」収録。2代目ギターリスト、Martin Barre(マーティン・バー)加入後初のレコーディング曲でシングルリリースされ全英第3位と大ヒットした。海外ではオールディーズ化しているほどの人気曲。
8(To Cry You A Song) -- 「BENEFIT」収録。クラシカルなリフが印象的なこれもハードロック色の強い曲。JETHRO TULLのひねくれ楽曲群の中ではかなりとっつきやすい。
9(Teacher) -- 「LIVING IN THE PAST」収録。"Witch's Promise/魔女の約束"とカップリングでシングルリリースされ全英第4位の大ヒットとなった。米盤の「BENEFIT」にも収録されている。
10(Sweet Dream) -- 「LIVING IN THE PAST」収録。シングルリリースされ全英第9位の大ヒット曲。David Palmer(デイヴィッド・パーマー)によるオーケストラアレンジが印象的。
11(Cross-eyed Mary) -- 「AQUALUNG」収録。メロトロンによるイントロから徐々に盛り上がる、70年代ブリティッシュロックの典型ともいえる名曲。
12(Mother Goose) -- 「AQUALUNG」収録。アコースティック路線の名曲。タイトルも歌詞も曲もしつこいくらいブリティッシュ。
13(Aqualung) -- 「AQUALUNG」収録。何も言うことはありませんね。永遠の名リフです。アコースティックとエレクトリックのコントラストが絶妙だが、Martin Barreのギターソロも名演。代表曲だがフルートは入っていない。
14(Locomotive Breath) -- 「AQUALUNG」収録。何も言うことはありませんね。永遠の名リフですその2。ヘヴィなリフもさることながら、皮肉たっぷりの歌詞、下品なフルートソロ、すべてがJETHRO TULLである。代表曲。
15(Life's A Long Song) -- 「LIVING IN THE PAST」収録。EPとしてリリースされ全英第13位のヒットとなった。David Palmerによるストリングズをフィーチャーしたアコースティック曲。歌詞にも注目。
16(Thick as A Brick (Extract)) -- 「THICK AS A BRICK」収録、というかアルバム1枚に及ぶこの超大曲の最初のアコースティックパートの抜粋。この名曲に関してはアルバムを買ってください。
17(A Passion Play (Extract)) -- 「A PASSION PLAY」収録、というかアルバム1枚に及ぶこの超大曲の最後のハードパート"Magus Parde"の抜粋。最後の最後にフェイドアウトしてしまうのはこの曲を全部聴いたことのある人間にとっては歯がゆいことこの上ない。この名曲に関してもやっぱりアルバムを買ってください。
18(Skating Away on the Thin Ice of the New Day) -- 「WARCHILD」収録。元々は「A PASSION PLAY」の原型「THE CHATEAU D'ISASTER TAPES」のセッションでレコーディングされていたアコースティック曲である。ライヴではメンバーが楽器を持ち帰るなどのお遊びもあった。
19(Bungle in the Jungle) -- 「WARCHILD」収録。シングルカットされ米では12位に昇るヒットとなった。JETHRO TULL風歌謡曲。
Disc2
2(Too Old to Rock'n'Roll:Too Young to Die) -- 「TOO OLD TO ROCK 'N' ROLL:TOO YOUG TO DIE!」収録。JETHRO TULL風歌謡曲の典型。歌詞も演歌っぽいよなあ。
3(Songs from the Wood) -- 「SONGS FROM THE WOOD」収録。John Glascock(ジョン・グラスコック)を迎えてリズムセクションが鉄壁の布陣となったこともありこのころからリズムアレンジにこれまで以上に凝りだした。震えるほどトラッドの薫りのする名曲。
4(Jack-in-the-Green) -- 「SONGS FROM THE WOOD」収録。アコースティック佳曲。全楽器をAndersonが担当している。燃え尽きるほど一人トラッド。
5(The Whistler) -- 「SONGS FROM THE WOOD」収録。プロモフィルムも作られた。タイトルどおりWhistleがフィーチャーされ、もちAndersonが吹いている。狂おしいほどトラッド。
6(Heavy Horses) -- 「HEAVY HORSES」収録。JETHRO TULL史上屈指の名曲である。一分の無駄も隙もない完璧な展開・演奏はJETHRO TULLの最高潮の姿を映し出している。Darryl Way(ダリル・ウェイ)がヴァイオリンで参加。やっぱりトラッド。
7(Dun Ringill) -- 「STORMWATCH」収録。ファンの間で人気の高いアコースティック曲。しつこいけどトラッド。
8(Fylingdale Flyer) -- 「A」収録。刻みたいほどトラッド・・・じゃないぞ! 急に流れが変わって「?」とならないように。Eddie Jobson(エディ・ジョブソン)を迎えたシンセ路線の曲で、ファンには不評の「A」だがこれは良いです。
9(Jack-A-Lynn) -- 元々は「20 YEARS OF JETHRO TULL」収録。「THE BROADSWORD AND THE BEAST」のアウトテイクで、現在は同アルバムのリマスター盤にも収録されている。涙の超名曲である。これは是非押さえなくてはならない。
10(Pussy Willow) -- 「THE BROADSWORD AND THE BEAST」収録。マンドリンがフィーチャーされた静と動の融合がこれまた素晴らしい名曲。Dave Pegg(デイヴ・ペグ)のフレットレスベースがアクセントになっている。
11(Broadsword) -- 「THE BROADSWORD AND THE BEAST」収録。シンセの導入が成功した佳曲。こういう曲なら保守的なファンも納得するだろう。
12(Under Wraps #2) -- 「UNDERWRAPS」収録。トラッド路線のアコースティックな名曲だが、これが収録されているアルバム、「UNDERWRAPS」はバリバリのシンセ路線です。ドラムも打ち込みです。この曲はアルバムの中ではメチャメチャ浮いてます。勘違いしないように。
13(Steel Monkey) -- 「CREST OF KNAVE」収録。「グラミー賞/もらって恥ずかし/ヘビメタ部門」というバカ俳句(字余り季語無し)を今思わず詠んでしまいました。この曲はシンセと打ち込みドラムがフィーチャーされてはいるがハード路線が復活しファンには人気が高い。シングルリリースされたがジャケは「見猿聞か猿言わ猿」だった・・・誰か何とかしろぉ!
14(Farm on the Freeway) -- 「CREST OF KNAVE」収録。中期に復帰した曲調のおかげか人気の高い名曲である。そればかりではなく格段の進歩を遂げたアンダーソンのフルートは新たな可能性をも示している。70年代のJETHRO TULLしか知らないファンに是非聴いてもらいたい。
15(Jump Start) -- 「CREST OF KNAVE」収録。アコギもフルートも入っていてファンも安心の静&動スタイルの佳曲。Martin Barre(マーティン・バー)も上手くなった。
16(Kissing Willie) -- 「ROCK ISLAND」収録。プロモヴィデオも制作されたハードロックスタイルの曲。このアルバムの他の曲はもっとメロディアス。
17(This Is Not Love) -- 「CATFISH RISING」収録。ハード路線の曲。何でこの曲? アルバムにはもっと良い曲が入ってるのに。
選曲に不満がないわけではない。収録時間の都合もあるだろうが個人的に加えて欲しかったのは"My Sunday Feeling""Witch's Promise""SeaLion""Budapest"といったところ。そうでなくとも"Too Cry You A Song"は"With You There to Help Me"に、"Fylingdale Flyer"は"Black Sunday"に、"This Is Not Love"は"Rocks on the Road"に差し替えたほうが良いと思う。ま、あくまでも個人的な意見ということで。