CREST OF A KNAVE

東芝EMI TOCP-67682
CREST OF A KNAVE
  1. Steel Monkey
  2. Farm on the Freeway
  3. Jump Start
  4. Said She Was A Dancer
  5. Dogs in the Midwinter
  6. Budapest
  7. Mountain Man
  8. The Waking Edge
  9. Raising Steam
Remastered Edition Bonus Track
  1. Part of the Machine

JETHRO TULL ARE: IAN ANDERSON, MARTIN BARRE, DAVID PEGG.

IAN ANDERSON: Vocals, Flute, Guitars, Keyboards, Drum Programme and Percussion
MARTIN BARRE: Lead Guitars
DAVID PEGG: Bass Guitar

PRODUCED BY IAN ANDERSON
ENGINEERED BY IAN ANDERSON, MARTIN BARRE, DAVID PEGG, ROBIN BLACK,TIM MATYEAR

RECORDED JUST ROUND THE CENTRE FROM THE KITCHEN IN THE ROOM BEHIND THE DOOR WHICH USED TO BE PAINTED WHITE BUT IS'NT ANY MORE.

SONGS COMPOSED BY IAN ANDERSON


-- Highly Recommended !

私的アオリ


前作「UNDER WRAPS」のツアーで喉を痛めたIan Andersonは、JETHRO TULLの活動をいったん中止し養鮭業に専念するが、単発的なイベントでTULLを率い、本格的な復活の機をうかがっていた。
1987年にリリースされた本作は、前作のニューウェイブ路線から中期の音楽性に回帰した、まさに復活作である。全英第19位、全米第32位とセールス的にもまずまずの結果を出し、88年度グラミー賞から新設されたベストハードロック/ヘヴィメタル部門を受賞してしまい良くも悪くも話題になった。

バンドメンバーの顔ぶれがやや変わり、Anedersonの片腕として縦横無尽な働きをしていたPetrer=John Vetteseが脱退していたため、キーボードをAnderson自らがプレイしている。Vetteseはアルバムレコーディング前の単発的なコンサートには参加していたのだが、脱退の事情はよく分からない。TULLの休業中に口に糊するためセッションワークに走ったのでそのまま脱退したのかもしれないし、シンセサウンドと決別するためにAndersonが解雇したのかもしれない。しかし本作から「CATFISH RISING」までの専任キーボーディストの不在は、この後TULLの方向性にブレをもたらし、アルバムの出来がバランスを欠く要因になっていると思う。
ドラマーの椅子には、「UNDER WRAPS」のツアーメンバーだったDoane Perryと旧メンバーのGerry Conwayが座っているが、「UNDER WRAPS」に引き続き一部Andersonがドラムマシンを操っている曲もある。「UNDER WRAPS」はドラムマシンだから駄作、みたいな意見をよく見かけるが、それなら本作以降もけなすべきだ。Andersonは生身のドラマーになかなか満足できず、しばらくドラムマシンに頼り続けることになる。
以後「CATFISH RISING」までは、少なくともスタジオアルバムに関しては、Anderson、Martin Barre、Dave Peggの3人にゲストメンバーを加えた編成となる。まあPeggも再結成FAIRPORT CONVENTIONと掛け持ちしているおかげでだんだんTULLが片手間になってくるんだけども。。

さて、このアルバムが発表された頃(80年代後半)のミュージックシーンは、今ではあまり想像もつかないが世界的にハードロック/ヘヴィメタルの黄金期で、GUNS 'N' ROSESMETALLICABON JOVIをはじめアメリカ産のHR/HMバンドが台頭し世界中のチャートを席巻しており、当時洋楽といえばほぼこのジャンルを指していたぐらいであった。(まあシングルチャートを席巻していたのはバラードばかりでしたが)
このアルバムもそのような状況に呼応してか全体的にハードロック色を濃くしている。

1(Steel Monkey)は前作のスタイルを踏襲しながらのハードエッジ路線で、もしかしたら古いファンにとっては魅力に乏しいかもしれない。しかしそんなファンも2(Farm on the Freeway)には満足なのではないだろうか。キーボードとフルートの静かなイントロに始まりMartin Barreのハードなギターで盛り上がるこの曲はTULLの数ある名曲の一つだ。Andersonのフルートの成長が著しい。ダテに休んでたわけじゃないのね。間髪入れず3(Jump Start)につながるが、これも良い。以上の3曲は後にベスト盤にも取り上げられただけあってこのアルバムの白眉だ。でももう白眉が出ちゃって後はどーなの・・・と思ったアナタ、ご安心めされい。4(Said She Was A Dancer)もPeggのウッドベースが楽しめる好バラードだ。

しかしこのアルバム本当のハイライトは後半にあったりする・・・6(Budapest)だ。FAIRPORT CONVENTIONからヴァイオリニストのRic Sandersをゲストに迎えた大作で、これぞTULL!的な快作である。やはりAndersonのフルートはこの3年の間に格段の成長を遂げている。アコギの入ったTULLの曲はほとんどハズレがないがこの曲も例に漏れない。Andersonのお気に入りで80年代のTULLを代表する楽曲の一つである。

残念ながらその他の曲は魅力に乏しいと言わざるを得ない。TULLの特徴であるスケール感がないのだ。やはり、専任キーボーディストの不在が大きいと思う。ファンならば、もし4(Said She Was A Dancer)にJohn Evanのピアノがあったならと夢想したことがあるはずだ。
アルバムリリース後のツアーにはDon Aireyが参加したが渡り鳥らしくすぐ脱退(この凄腕キーボーディストにかかってもTULLは難曲だらけで四苦八苦だったらしい)、AndersonはFAIRPORT CONVENTIONのMaart Allcockをキーボーディストに据えるが、これはあくまでも代打で、John EvanやPeter Vetteseを懐かしがりつつキーボーディスト探しに奔走することになる。
1曲でも良いのでこのアルバムでDon Aireyに弾いて欲しかった。

本作からはいくつかプロモビデオも製作された。中でも1(Steel Monkey)にはなぜか当時FAIRPORT CONVENTIONにいたDave Mattacksが、また3(Jump Start)にはDon Aireyが出演しているのでマニアには要チェックだ。(「20周年ビデオ」に収録)

・・・そしてこのアルバムはBON JOVIMETALLICAを押しのけグラミー賞の第一回ベストハードロック/ヘヴィメタル部門を受賞してしまう・・・

リマスター盤にはボーナストラックとして10(Part of the Machine)を収録。元々は「20周年BOX」に収録されていた曲だが、これだけかよ・・せめて"Coronach"とか、エンハンストでプロモビデオも入れて欲しかった。

なお、アルバムタイトルの「CREST OF A KNAVE」は「悪党の紋章」とでもいう意味。庶民は家紋を持てない英国階級社会への皮肉らしい。もっともIan Anderson自身はスコットランドのAnderson氏族(Clan)の出身のはずなので、この紋章を使用しているハズ。


戻る

j-tull.jp
Copyright 2003-2007 j-tull.jp