UNDER WRAPS

東芝EMI TOCP-67681
UNDER WRAPS
  1. Lap of Luxury (Anderson)
  2. Under Wraps #1 (Anderson)
  3. European Legacy / ヨーロッパの遺産 (Anderson)
  4. Later,That Same Evening / ある夜の出来事 (Anderson/Vettese)
  5. Saboteur / 破壊工作員 (Anderson/Vettese)
  6. Radio Free Moscow / 自由モスクワ放送 (Anderson/Vettese)
  7. Astronomy (Anderson/Vettese)
  8. Tundra (Anderson/Vettese)
  9. Nobody's Car (Anderson/Barre/Vettese)
  10. Heat (Anderson/Vettese)
  11. Under Wraps #2 (Anderson)
  12. Paparazzi / フォトグラファーの悲しみ (Anderson/Barre/Vettese)
  13. Apogee / 遠地点 (Anderson/Vettese)
  14. Automotive Engineering (Anderson/Vettese)
  15. General Crossing (Anderson/Vettese)

enhanced CD section includes the video:
● Lap of Luxury


JETHRO TULL
IAN ANDERSON -- VOCALS, FLUTE, ACOUSTIC GUITAR, DRUMS
MARTIN BARRE -- ELECTRIC GUITARS
DAVID PEGG -- ELECTRIC AND ACOUSTIC BASSES
PETER VETTESE -- KEYBOARDS AND PERCUSSION

LYRICS BY IAN ANDERSON

PRODUCED AND ENGINEERED BY IAN ANDERSON
ASSISTANT MIXING ENGINEERS -- P.VETTESE, M.BARRE AND D.PEGG



私的アオリ


バンドもこう長く続くと1枚や2枚はとんでもない方向性のアルバムが出てくるものである。前作「THE BROADSWORD AND THE BEAST」がトラッド路線を復活させシンセ導入と上手くミックスさせた傑作だったのに対し、本作では再びトラッド路線を後退させ、全編シンセが彩る音世界になってしまった。リアルタイムで聴いていたファンはさぞかしショックだっただろう。私などは後追いだから気楽なものだが・・・

もっともこの路線の萌芽は前年にリリースされたイアン・アンダーソンのソロアルバム「WALK INTO LIGHT」にあり、アンダーソンはその路線をJETHRO TULLというバンドの枠で踏襲しようとしたわけである。
つまりこの「UNDER WRAPS」と「WALK INTO LIGHT」とは兄弟的な位置関係にある。そしてそのどちらともピーター・ジョン・ヴェテッシの色が非常に濃い。彼なくしてこの時期の -- 最も混迷していた時期の -- TULLは立ち行けなかったのではないだろうか。
作曲クレジットを参照しても、アンダーソン単独の曲は実質3曲だけなのである。アンダーソン以外のクレジットがこれほど入るのは実にファーストアルバム以来なのだ。(ヴェテッシだけでなくマーティン・バーも作曲に深く関わっている)

そしてどの曲もヴェテッシの好サポートを得て良く出来上がっている。「AQUALUNG」や「SONGS FROM THE WOOD」の影を振り切って純粋に鑑賞すれば、このアルバムが決して70年代の名盤たちにくらべて遜色のない作品であることがお分かりいただけるであろう。
同じシンセの導入でも、「A」でのように中途半端でないし、音圧も薄っぺらくない。 70年代には本物ストリングズを導入していたTULLの楽曲には、このくらい分厚いシンセの音をかぶせないと曲に張りが出ないんである。

1(Lap of Luxury)はプロモフィルムも作られた(リマスター盤にはエンハンストで収録)。シンセにフルートが絡む様は最初に聴いたときは実に衝撃的だった。
各曲なかなか良く出来ていて、2(Under Wraps #1)、3(European Legacy / ヨーロッパの遺産)、4(Later,That Same Evening)あたりなんてじっくり聴くとメロディがやはりイアン・アンダーソンだ。
引っかかるようなリフがどことなく"Locomotive Breath"を連想させる9(Nobody's Car)や、凝ったアレンジの10(Heat)もどう聴いてもJETHRO TULL節炸裂ではないか。

なお、2(Under Wraps #1)と11(Under Wraps #2)は同じ曲。前者はニューウェイヴ的アレンジ、後者はトラッド風アレンジである。これによってアンダーソンはTULLの本質が以前と全く変わらぬことを示そうとしたのであろうか。
皮肉にも11(Under Wraps #2)はTULLの数あるアコースティック曲の中でも屈指の出来である。

本作はイアン・アンダーソンとマーティン・バーは大のお気に入りだそうだが、トラッド畑のデイヴ・ペグは嫌いなアルバムらしい。(近年のインタビューでは好きなアルバムと語っている。時とともに意見が変わったらしい。)
また、結成以来の付き合いであるChrysalisレコードも反発し、初めはリリースしないとごねたようだが、結局折れた。
ただ、この頃からイアン・アンダーソンとChrysalisの間では溝が深まりつつあったようで、一時はパット・ベネターらと共謀してChrysalisからの離脱も検討していたようだ。そして本作のセールス不振のためか、以後Chrysalisのバンドに対するフォローは薄くなる。

ツアーはドラマーにドーン・ペリーを加えて行われ、その模様は「LIVE AT HAMMERSMITH '84」やBOXセットで鑑賞できる。

結局このアルバムは特にアメリカで受け入れられず、またアメリカツアー中にイアン・アンダーソンが喉をかなり痛めたため、TULLは活動休止状態となる。ライヴによってはまるで歌えず金返せ状態だったと言われており、その酷評がアルバムセールスの不振につながった可能性もある。

2005年にリマスター再発された。
元々デジタルレコーディングではあったが、リマスター盤は音質が格段に向上している。元々のマスタリングが適当だったのか・・?
しかしながら、おかげでドラムの音が偽者くさくなりすぎてちょっと興ざめしなくもない。エンハンストで1(Lap of Luxury)のプロモビデオとフォトギャラリー付き。


Note:

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