IAN ANDERSON -- vocals,flute,acoustic guitar
MARTIN BARRE -- electric guitar,mandolin,marimba
JOHN EVAN -- piano,organ,accordian,synthesizers
BARRIEMORE BARLOW -- drums,glockenspiel
DAVID PALMER -- portative pipe organ,synthesizers
JOHN GLASCOCK -- bass guitar,vocals
All selections written by Ian Anderson except "Aqualung" written by Ian Anderson/Jennie Anderson,"The Dambusters March" written by Eric Coates,"Conundrum" written by Martin Barre/Barriemore Barlow and Quatrain (Martin Barre)
PRODUCED BY IAN ANDERSON
私的アオリ
1978年発表。全英第17位。全米第20位。JETHRO TULL初のフルライヴアルバムであり、70年代TULLの集大成ともいえる一作である。
「HEAVY HORSES」リリース後のヨーロッパツアーは全てがレコーディングされたそうで、その中から出来の良いものを取捨選択し、さらにベース以外は場合によってスタジオでオーバーダビングを施したらしい。ベースがダビングされなかったのはグラスコックが病床にあったためである。もっとも完璧なプレイなので、健康体だったとしてもほとんどその必要はなかっただろうが。
また、2枚組みとはいえフルライヴを収録しているわけではなく、アナログレコードに収めるために結構編集されていると言われている。今回リマスターと相成ったわけであるが、ボーナストラックがない。イアン・アンダーソンのライナーによるとこのときのヨーロッパツアーの音源は手元にゴロゴロしているらしいが、もったいぶらないでリリースしてくれよ・・・
ついでに本作は音質イマイチだったが、リマスターによってかなり改善された。しかしリミックスしたらもっと良くなっただろうな・・・いつか完全版をリミックスして出してほしい。切に願う。
で、紹介。
前作「HEAVY HORSES」発表のころからアンダーソンはバンドの将来に頭を悩ませていたらしい。アルバムの売れ行きも好調でありコンサートも相変わらず大盛況であったが、ロックシーンが大きく変化しつつあるということに、敏感なアンダーソンは感づいていたようだ。
このアルバムはバンドが結成されて10周年ということもあるが、それに加えアンダーソン自身がそれまでのTULLの音楽性に区切りを付ける意味で発表したという意味合いもあると考えられる。
アルバムはクロード・ノブズのMCによって幕を開け、めちゃくちゃにかっこいいイントロからアップテンポの2(No Lullaby)へとなだれ込む。ちなみにクロード・ノブスは欧州ツアーのプロモーターで、DEEP PURPLEの「MACHINE HEAD」の裏ジャケで顔が拝める。
スタジオバージョンとは趣が異なって変態ハードロックと化した3(Sweet Dream)の次はアコースティックコーナーだ。いわばTULLの"美味しい部分"。メンバー紹介に続く4(Skating Away on the Thin Ice of the New Day)では各メンバーが楽器を持ち替えるというお遊びもある。ただしデイヴィッド・パーマーは不在。
フルートソロである8(Flute Solo Improvisation / God Rest Ye Merry Gentlemen / Bouree)では、クレジットにはないが「WARCHILD」時のアウトテイクである"Quartet"のフレーズも出てくる。
9(Songs from the Wood / 大いなる森)は短縮バージョン。編集されているような気がして物足りない。
そしてこのアルバムの最大の聴き物、"Thick As A Brick"だ。12分ほどに短縮されているバージョンだが、寸分の隙もない演奏で一気にコンサートはクライマックスへ!しかしとにかくこの演奏は素晴らしい。ラストでオーディエンスが「ブリーーーック!」と叫ぶまで気の抜けないすさまじい演奏だ。
イアン・アンダーソンのピー入りMCに始まるDisc2。ピーで消されたのは"bastard"とのこと。バリー・バーロウとジョン・グラスコックの鉄壁のリズムセクションが光る2(Hunting Girl)はベスト盤には収録されないがライヴでは頻繁に取り上げられる通好みの名曲である。
バリー・バーロウのドラムソロのための曲4(Conundrum)はマーティン・バー作のインストゥルメンタル。リフをつなげただけの曲のようでもあるがこの上なく格好良く、アンダーソン抜きで繰り広げられるプログレハードの世界が楽しめる。ちなみにYESの"Changes"は絶対この曲を元ネタにしていると思う。トレヴァー・ラビンはTULLの大ファンだし。
コンサートは6(Cross-eyed Mary / やぶにらみのマリー)でいったん幕を閉じる。ラストでアンダーソンの"Bye, Bye !"が聴けるが、旧盤CDではなぜか7(Quatrain)の後に入っていたのが今回正しい位置に直された。
これ以降はアンコール。
7(Quatrain)は・・・バー作曲とクレジットされているが、フレーズはアーロン・コープランドの"Hoedown"である。EL&Pで有名なあの曲ですな。こんどはこっちがパクリですかい。
間髪入れず8(Aqualung)。やはりバーロウ&グラスコックのリズムセクションは凄すぎる。オリジナルのクライヴ・バンカー&ジェフリー・ハモンドとは比較にならないヘヴィなグルーヴで曲を「引きずって」いる。
次の9(Locomotive Breath)もやっぱりヘヴィ。後年グラミー賞のヘビメタ部門を受賞してしまうわけだが、さもありなんという感じである。凡百のメタルバンドよりずっとヘヴィだ。この曲の後半はメドレーで、ツアーによってアレンジが異なる。ここでは"The Dambusters March"が演奏されているが、他にエルガーの"威風堂々"とかベートーベンの"第九"なんてこともあった。最後は"Aqualung"のワンフレーズで締めくくる。"Your poor old sod, you see, it's only me."のところで、"me"ではなく、"could be anyone !"と締めるところがニクイ。
全体を改めて聴き通してみて・・・
「HEAVY HORSES」ツアーのライヴということでトラッド三部作の真っ只中のはずであるが・・・案に相違してアコースティック一辺倒ではなく、バーロウ&グラスコックのヘヴィでテクニカルなリズムセクション、そしてさらにそれに乗っかるバーの歪んだギターサウンドはほとんどプログレハードの世界である。
イアン・アンダーソンのワンマンバンドとして語られることの多いJETHRO TULLだが、特にアンダーソン抜きの4(Conundrum)などを「熟聴」して欲しい。バッキングの素晴らしさが改めて堪能できる。
バンドとしては確かに油ののった時期ではあり、「全盛期」と称されているわけではあるが、めまぐるしくスタイルを変えるTULLであるから必ずしもこのアルバムがバンドの歴史の最高の姿を捉えているとは言い難い。
誤解を招かないように説明すると、これはこれで内容は最高なのだが、このアルバムを聴いてTULLのライヴはこういうものなんだと理解するとまずい。このアルバムで聴けるスタイルは70年代半ばから後半にかけてもので、これ以外の時期はスタイルが違う。例えば今のTULLなんて本作とはまるで別バンドである。
それでもベスト盤的な選曲でもあるし本作が傑作であることは変わりはない。
必聴盤。
なお、この時期のライヴは映像でも良く知られていて、このアルバムの発表に合わせてマディソン・スクエア・ガーデンで行われたライヴは全世界に衛星中継され(ロックバンドとしては史上初)、そのライヴから"Thick As A Brick""Songs from the Wood""Aqualung"が「20周年ヴィデオ」に収録されている。
また、「SONGS FROM THE WOOD」の際のロンドンでのライヴはBBCで放映された。日本でもWOWOWで放映されたことがある。ここから"Aqualung"が「A NEW DAY YESTERDAY」(「25周年ヴィデオ」)に収録されている。
JETHRO TULLのライヴはアンダーソンの下世話なアクションも含めたビジュアル的なものも重要なので、是非映像のほうもチェックしてほしい。
j-tull.jp