東芝EMI TOCP-67182(Remastered/紙ジャケ)
Chrysalis 7243 5 41571 2 7 (Remastered/EU)
Mobile Fidelity Sound Lab/EMI UDCD 745 (Gold CD/U.S./廃)
All Tracks Composed by Ian Anderson Except: Sealion 2 Lyrics by Jeffrey Hammond-Hammond
Music arranged by JETHRO TULL
Ian Anderson:vocals, flute, acoustic guitar, alto, soprano and sopranino saxaphones
Martin Barre:electric and Spanish guitars
John Evan:organ, piano, synthesisers and piano accordion
Jeffrey Hammond-Hammond:bass guitar and string bass
Barriemore Barlow:drums, glockenspiel and sundry percussion devices
Orchestrations by David Palmer
The orchestra(the Philamusica of London) was conducted by David Palmer
Recorded at Morgan Studios, London
Engineer:Robin Black
Producer:Ian Anderson
Exective producer:Terry Ellis
私的アオリ
・・・鳴り響くサイレン
娘:もう一杯紅茶飲んでく?お父さん。
父:イヤ、いいよ。仕事に遅れるから。。。
けたたましい爆音・・悲鳴・・マシンガンの掃射音・・・
・・・こんなSEで始まる1974年リリースの名作。全英第14位。全米第2位。
イアン・アンダーソンは「A PASSION PLAY」のコンセプトを映画向けに展開することを真剣に検討しており、スタッフの陣容もほぼ固めていた(Monty Pythonのジョン・クリースも一員だった!)が、スポンサー等の問題から話はボツり、結局通常のバンドアルバムとして本作「WARCHILD」(ワンワードで‘W’と‘C’が大文字--WarChild)をレコーディングすることになった。
日本では「競争心をテーマとしたコンセプトアルバム」とされるが、そうではなく「A PASSION PLAY」そしてそのプロトタイプである「CHATEAU D'ISASTER TAPES」の流れを組む作品で。「"A PASSION PLAY"3部作」とも言うべき一連の作品群の最終作と位置づけることができ、一言でいうと"「A PASSION PLAY」をポップでわかりやすくしたアルバム"と評するのが妥当だと思う。
前作前々作に比べ、短い曲が並ぶフツーのアルバムになり、またデイヴィッド・パーマーの指揮によるオーケストラがほぼ全編にわたってフィーチャーされ前作にみられたダークさも後退しているためアヴァンギャルドながら分かりやすい印象を与える。
特に、印象的なリフを持ち、ブラックプールの環境問題を風刺した5(SeaLion)は - どういうわけかベスト盤等で取り上げられることはないが - アヴァンギャルドさとポップさが見事に調和した名曲である。このアルバムの方向性を最もよく体現している曲だと思う。
ライヴでは各メンバーが楽器を交換する定番レパートリーとなる6(Skating Away on the Thin Ice of the New Day)では、歌詞に"passion play"が登場する。
米でシングルヒットした7(Bungle in the Jungle)は、JETHRO TULLの作品群の中でも群を抜いてポップな曲。しかしポップなのは良いんだがメロディが歌謡曲に聴こえてしまうのはどういうわけだろう?
そして10(Two Fingers)は、「AQUALUNG」からのアウトテイクで当時シングルリリースされる予定だったが何らかの理由でボツってしまった"Lick Your Fingers Clearn"の改作。"Lick〜"の方は後に「20周年BOX」や「AQUALUNG」リマスター盤に収録される。
6(Skating Away on the Thin Ice of the New Day)、7(Bungle in the Jungle)、8(Only Solitaire)の3曲は、「CHATEAU D'ISASTER TAPES」のレコーディング時にはできていた曲だという。「CHATEAU D'ISASTER TAPES」をリミックスして収録した「NIGHT CAP」では、8(Only Solitaire)は"Solitaire"というタイトルで入り、他の2曲はどういうわけかオミットされている。
ボーナストラックは全て「WARCHILD」レコーディング時の未発表曲である。
11(Warchild Walz)はリマスター盤で初めて日の目を見た曲。詳細は不明だが、ボツった映画用に書かれた曲かもしれない。というのもデイヴィッド・パーマーの回想で、映画用に作った曲に"Waltz of the Angels"というタイトルのものがあったがテレビ局にあげちゃった云々というくだりがあるのだ。(あくまでも推測だが・・・)
12(Quartet )13(Paradise Steakhouse)14(Sealion 2)は「NIGHT CAP」で発表済み。14(Sealion 2)は5(SeaLion)の姉妹曲だが、ジェフリー・ハモンド作詞であることが初めてクレジットされている。
15(Rainbow Blues)は「M.U.」で、16(Glory Row)は「REPEAT」で、17(Saturation)は「20周年BOX盤」にて既出の曲。
また、リマスター盤でも発表されなかったが"The Beach, Parts 1 & 2"という未だ眠っている曲もあるという。
こうしたボツ曲の多さはそれだけ多くの曲が出来上がっていたということなのだが、イアン・アンダーソン一人でよくもこれだけの数作詞作曲したもんである。それだけクリエイティビティが爆発していたということか。
TULLの歴代アルバムでもデイヴィッド・パーマーのオーケストラアレンジが最もフィーチャーされた作品で、確かにクラシカルな感触はある。しかしいわゆる様式美ロックとはまったく異なる肌触りなのは、同時にトラッドやブルースも積極的に取り入れつつ音楽性を確立したTULLのオリジナリティの賜物なのか。名盤。